免疫力のキーポイントになる「SigA」について
皆さんこんにちは
パーソナルトレーナーの野上です
今日は「免疫力のキーポイントになる「SigA」について」というテーマでお届けしたいと思います。
アスリート・・・
屈強な身体を誇り、病気と無縁の印象を持たれる方も多いと思います。
しかし、実はアスリートの様に普段激しくトレーニングしたり、身体を酷使している人ほど病気にかかりやすかったりするものです。
特に上気道感染症という、気道の上部に関節症を煩わせるケースはとてもよく見られます。
アジア競技大会日本代表選手団の報告によると、
- 大会期間中に選手が罹患した内科系疾患のうちおよそ3割から4割が呼吸系の疾患でありその多くが上気道感染症であった
そうです。
また、アジア選手のみならず、もっと大きな大会であるオリンビックにおいても、
- 夏季オリンビックで4割、冬季オリンビックではおよそ6割が呼吸系の疾患であり、その多くが上気道感染症であった
そうです。・・・・
多すぎない?(^^;そんな気がするのは僕だけでしょうか?
ではなぜアスリートはこのように上気道感染症にかかりやすいのか?です。
Niemanらは、
- 運動習慣のない人と比較して、中程度の強度・時間の運動を行う人の免疫機能はとても高い
ことを報告しています。しかし、
- 過度な強度・時間の運動を行う人は逆に免疫機能が低く、罹患リスクは高い
と提唱しています。
ここでポイントになるのが「SigA(Secretory Immunoglobulin A)」という物質です。
正式名称は「分泌型免疫グロブリンA」といいます。
これは唾液、鼻水、汗、乳汁など、身体から分泌する液体などに存在します。
そして病原体の粘膜侵入の阻止や、毒素の中和作用を持つことから、粘膜免疫の主体とされています。
また、上気道感染症に関わるウィルスや細菌だけでなく、
- 心疾患や脳血管疾患に関わるとされている歯周病菌
- 胃潰瘍や胃がんの発生に関わるとされているピロリ菌、
- う歯菌
など、広範囲の病原体に抵抗を示し、疾患から身体を守る重要な役割を持っています。
唾液のSigAを調べると、これが低下した場合に罹患リスクが高くなることがわかっています。
- 唾液のSigAを調べると高強度の持久性の運動((75%Vo2max)で60分間の自転車運動)で低下し、回復には丸1日を要する
- 2時間を超えるマラソンなどをすると、SigAはもちろん低下するが、これ位の量の運動になるともはや1日では回復はしない
そうです。
また、高強度の運動を繰り返して行ってもこのSigAは低下することがわかっています。
アスリートの合宿中などでこのSigAが低下し罹患率が上がるそうです
んー、どうりで、オリンピック前などで強化合宿中に熱を出し・・・
みたいな報道が多いわけです。
このSigAが低くなるシーンというのはある程度決まっています。
その代表的なシーンは
- 高強度トレーニング
- 高地滞在
- 脱水を伴う減量
- 長距離移動
そして、女性のアスリートの無月経の症状もSigAが低下する代表的なシーンとなります。
一つ一つ言われると確かに・・と思われる方も多いと思います。
もう、持久系の選手が高地トレーニングをするために長距離移動し、さらにそこからハードにトレーニングして、ちょっと脱水しちゃったら・・・・
いやあ・・・
免疫力が低下しまくりですね(^^;
実際こういうシュチェーションになったら、体調を壊したという経験をされた方も少なくないのではないでしょうか?
アスリートにおける免疫機能について詳しく説明
このSigAの低下するそれぞれのシュチエーションに置いてより具体的な説明をしていきたいと思います。
- 高強度トレーニング
高強度のトレーニングといってもこの場合は、高重量で短時間のウェィトトレーニングというより、高強度の持久性の運動をした時に特に一時的にSigAが低下します。
また、実際の試合期間中においてもSigAは低下することがわかっいます。
そして試合期間や合宿などが長期に渡れば渡るほどSigAの低下が進み、上気道感染症にかかるリスクが増加すると言われています。
- 高地滞在
高地トレーニングは持久性の選手においてはよく見られるポピュラーなトレーニングです。
- 標高1200mで高地トレーニングを行なった選手に比べ、滞在を2500m→3000m→3500mと6日ごとに上昇させた所、SigAの低下はみるみる進んだ
という研究報告があります。
まあ、日本では3500mなんて超高地は存在しないですが(富士山より高い!)、それでも高地になればなるほどSigAの低下が進むことは覚えておくと良いと思います。
- 脱水を伴う減量
階級制のスポーツには減量がつきものです。
- 1週間の短期減量と、3週間という少し時間をかけた減量で、両者とも体重の4%の減量を実施したところ、両者ともSigAの低下が見られた
という報告があります。
減量中のアスリートは特に感染症の予防やリカバーに注意を払う必要があります。
- 長距離移動
一流アスリートになると、国際大会への出場や海外合宿などを伴う機会が増えます。
- 長距離移動に際してのSigAの低下は10時間に及ぶ飛行機を使った移動において見られた
という報告があります。
航空機内の気圧は0.8ほどと平地より低く、これは標高2000mくらいにあたります。
さらに航空機内の空気は乾燥しているため、このような環境に長時間いるとSigAの低下を誘発すると考えられています。
アスリートにおいては、トレーニング以外でも環境の面から意外と病気にかかるリスクは高いものなのです。
普段のトレーニング以外でも気をつけなければならないことはたくさんあります。
せっかくハードなトレーニングを積み重ねても、病気になって肝心の試合に出れないなんてことになったら元の木阿弥ですよね。
「SigAの低下のサインについて」
まず、このSigAの低下の数値を測るのは実際手間がかかります。
なので、SigAの低下のサインを自分で知ることでSigAの低下が起きているかどうかを推測することが大切です。
ではSigAの低下のサインのチェックの仕方ですが、
- 休養後の回復の程度を自問自答する(よく休めたかどうかを感覚で確認する)
- 寝つきや寝起きの良し悪し(睡眠効率)
- 口渇感(安静時の口腔内の乾き、唾液の粘つき)
となります。
休養後の回復の程度
1に関しては、休養をした後、十分に自分の身体が休めているかどうかを感覚でいいので確認します。
これを自問自答することで、いつもより悪い状態だと自覚できるようであれば、それはそのままSigAの低下のサインだと思っていただいていいと思います。
寝つきや寝起きの良し悪し
2に関しては、睡眠効率の計算式にまず当てはめます。
睡眠効率の計算式は、(睡眠時間÷寝床に入っていた時間)×100で表せます。
この割合は85〜90%以上が理想であるとも言われています。
この割合とSigAの低下は相関関係にあることがわかっています。
また睡眠時間が確保されていたとしても、この睡眠効率が悪く寝つきや寝起きが悪いとSigAの低下の可能性が高まります。
口渇感(安静時の口腔内の乾き
3に関しては、そもそもSigAとは唾液などの粘膜免疫が主体です。
唾液量の減少はそのままSigAの低下に繋がりやすくなります。
また、唾液にはSigAの他にも多くの抗菌、抗ウィルスタンパクが存在します。
唾液量の低下は色々な意味で粘膜のバリア機能の低下を意味します。
実際に合宿中に2%以上の体重が減少した選手を調べると明らかなSigAの低下と、口渇感が見られたそうです。
選手の口渇感を伴う体重減少が見られた時は脱水が疑われ、併せて免疫機能の低下の可能性が高くなりますので十分な注意が必要です。
これらのチェックは機械などを使わず、日頃のチェックで十分にセルフチェックができるものばかりです。
アスリートであれば、休んでも疲労感が抜けず、水を飲んでも口が乾き続けるなどの症状が出たら、免疫機能が低下しているんだなと気付けるようになってもらいたいと思います。
SigAの低下に対する対策
まず、対策のポイントをあげてみると
- 病原体を身体に入れない
- トレーニング内容の調整
- 物理的療法
- 食事・栄養補助食品対策
が挙げられます。
病原体を身体に入れない
まず、1の病原体を身体に入れないからですが、こう書かれると「マスクの着用」が真っ先に思い浮かぶと思います。
もちろんマスクは重要なのですが、この場合のマスクの役割は感染の予防というより鼻や口の粘膜を保湿、保温する目的で使用します。
口渇感があるときや乾燥した場所、脱水を伴う減量時の使用が勧められます。
接触感染の原因は、手指に付着した病原体を自分で目や鼻、口の粘膜に運び体内侵入を許してしまう場合があります。
そのために手洗いの徹底が推奨されます。
トレーニング内容の調整
2のトレーニングの調整ですが、SigAの低下と言うのは長時間にわたるトレーニングの時に起きやすいのです。
また、繰り返し行われる高強度トレーニング時にもSigAの低下は引き起こされやすくなります。
しかし、逆に言えば、短時間のトレーニングであれば、いかに高強度のトレーニングであってもSigAの低下と言うのは引き起こりにくくなります。
ここで出てくるのが「テーパリング」です。
テーパリングとは、試合に向けてのトレーニングの調整です。
この調整の基本は試合が近づくと、
- トレーニングの強度は高く
- 時間や量は短くしていく
ものです。
試合に向けてのトレーニングで大事なのは「疲労を残さず」「パフォーマンスは落とさない」ことです。
疲労はトレーニングの量に大きく左右されるので、ここは落としていきます。
しかし強度(重さ、速さ)は高いトレーニングをすることにより、試合で高い出力や速度を発揮できるように調整していくのです。
この手法は、実はSigAの低下にも実は有効です。
実際、最大挙上重量の70%でベンチプレス やレッグブレスを10回5セット行なってもSigAの低下はほとんど起きないことがわかっています。
物理的療法
3の物理的療法とは何か?ですが・・
これは簡単に言うと「マッサージ」です(^^)
マッサージでSigAの低下を見込めるのか?と疑問に思う方もいると思います。
しかしSigAの低下と疲労は密接に関係していることから、疲労回復に用いられるマッサージもSigAの低下対策には、実はとても有効なのです。
また、同じような意味では鍼療法もとても有効です。
高強度のトレーニング後に鍼療法を行うとSigAの低下が防げることがわかっています。
また、実際にサッカーの試合後に鍼療法を行なったところSigAの低下が見られなかったと言う報告もあります。
マッサージや鍼療法は、疲労回復だけでなく、免疫機能の低下に対しても有効な施策であります(^^)
栄養対策
4の栄養対策ですが、SigAの低下にはビタミンAの摂取が有効となっています。
またビタミンDの摂取もとても有効です。
ヒドロキシンビタミンDを48〜60ng/mlを目安に高めることでSigAの低下が高まることが示されています。
また、近年、乳酸菌によるSigAの低下の効果が認められてきています。
乳酸菌B240を4週間摂取した柔道選手が、摂取していない選手と比較して急速減量を行った時にSigAの低下が見られなかったことが報告されています。
以上のことから、
- 普段は手洗いの徹底とマスクの着用を習慣化し、
- トレーニングは高強度で短時間行い、
- トレーニング後はマッサージと鍼療法で身体をリカバーし、
- サプリなどで、ビタミンAとD、さらに乳酸菌B240を摂取していく
などのことで、SigAの低下に伴う免疫機能の低下に備えていただければと思います。
SigAの低下に伴って体調を崩し、大事な試合に出られない・・
なんてことが気になる方は、よろしければご参考にしてください(^^)
ではでは!